どうもっ!らぶあんどぴーすです。
📖読み切り短編物語
本日の物語を開いてみましょう🧐
「心を読める彼女と、秘密を抱えた僕」──非日常が暴いた恋の真実
■すべてを見透かす“目”
「あなた、また嘘ついたね」
そう言って、彼女は静かに笑った。
初対面のはずなのに、僕の心の中にある“隠していたはずの嘘”を見抜いた。 彼女の瞳は、どこか異様に深く、心の底にあるものをじっと覗き込んでくるようだった。
その瞬間、僕は悟った。
──この人は、心が“読める”。
そして、この人にだけは、嘘をつけない。
■出会いは“事故”だった
僕は蓮、Web制作会社で働く27歳。仕事はそこそこ、人生はぼんやり恋愛には臆病だった。
そんなある日、帰宅途中の駅で人混みに押されて転びそうになった。
咄嗟に誰かに掴まれ、引き上げられた。
「気をつけて。転ぶって、なんとなく感じたから」
そう言ったのが、七瀬だった。
彼女は、僕の「動く前の思考」に反応していた。
その夜から僕の日常は音を立てて変わり始めた。
■「あなたの“声”が、聞こえるの」
七瀬と会うようになって数日後、彼女は告げた。
「私ね、“感情が音として聞こえる”の。だから、あなたが今本当に何を感じてるか全部わかるの」
たとえば、好きとか疑ってるとか嘘をついてるとか、すべての“心の音”が、彼女には届くらしい。
僕は最初、信じられなかった。
でも、彼女はこう続けた。
「だから、恋をしたことがないの。“嘘”がすぐにバレてしまうから」
そして言った。
「でも、あなたの心は静かで素直で穏やかだから……側にいたいと思ったの」
■感情が聞こえる世界の孤独
七瀬の“力”は、幼少期からのものだった。 喜怒哀楽はもちろん、嫉妬や皮肉、裏切り、疑念まですべてが音で伝わってくる。
「人は、見えない場所でたくさんの嘘をついてる。だから疲れるの」
家族も友人も、誰ひとり心を完全に開いた人はいなかった。
そんな中、僕の感情だけが“静か”だったという。
「あなたの心には、“嘘をつく意志”があまりない。そういう人は珍しいの」
だから、彼女は僕を選んだのだという。
■「本音しか通じない恋」が始まった
ある日、僕は彼女に告白した。
「好きだよ。たぶん最初から」
七瀬はにっこりと笑った。
「うん、聞こえてたよ」
その日から、僕たちは付き合い始めた。 普通のカップルのように映画を観たり、散歩したり、休日に料理したり。
ただひとつ違ったのは、「心の嘘がすぐバレる」ということ。
たとえば「大丈夫」と言っても、心で「寂しい」と思えばすぐに指摘される。 「行きたくない」気持ちも、言葉にする前にバレてしまう。
でも、それは逆に心地よかった。
■ふたりの関係に、ひとつの“異変”
恋人として過ごすうちに、僕の心にも変化が現れ始めた。
「……最近、君の前だと“思考が読まれている”ことに緊張するようになったんだ」
七瀬は悲しそうに言った。
「そうなると、心の音が“濁って”聞こえるの。前みたいに、きれいに届かなくなる」
つまり、僕が「彼女に読まれたくない」と思いはじめると、彼女は僕の感情を正しく受け取れなくなる。
それは、彼女にとって恐怖でもあった。
「この力を“消せたら”ってずっと思ってたの」
■「能力を消す方法」があるとしたら?
ある夜、七瀬は言った。
「蓮くん、私……この力を“消す方法”があるかもしれないの」
それは、ある臨床心理士から教えてもらった“記憶感情遮断”という特殊なセラピー。 記憶にまつわる感情を消すことで、その影響からくる“異能力”も消せる可能性があるという。
でも、それは同時に――
「あなたとの“恋愛感情”も、もしかしたら消えるかもしれない」
恋と引き換えに普通の生活を手に入れる。
僕は答えを出せなかった。
■決断の夜
「七瀬が、自分の力を捨てたいなら……俺も手伝いたい」
僕はそう言った。
だけど本当は、彼女が僕を“好きでいなくなる”可能性が怖かった。
でも、それでも。
「君が生きやすくなるなら、俺のことなんて忘れてもいい。幸せになってくれ」
七瀬は泣いた。
「あなたって、どうしてそうやって……最後の最後で、静かに優しいの?」
それが彼女と過ごした最後の夜だった。
■1年後、再会と“沈黙の告白”
1年後、僕は偶然、街中のカフェで七瀬を見つけた。
彼女は誰かと楽しそうに話していた。笑っていた。
声をかけるべきか迷った。
だけど、彼女がふとこちらを見た瞬間──
目が合い、そしてゆっくりと歩み寄ってきた。
「……久しぶり、蓮くん」
「……覚えてたの?」
「うん。“心で感じたこと”は、ちゃんと残るみたい」
僕はもう一度、彼女に恋をした。
でも、今度は心が読めなくてもちゃんと伝えることを僕は選ぶ。
■嘘がなくても、言葉は必要だ
たとえ、心を読めても。
たとえ、すべての感情が聞こえても。
それでも「言葉で伝えること」は、やっぱり必要だった。
“非日常の能力”に頼らなくても恋はできる。 むしろ“不完全”だからこそ、愛は深まる。
そんな当たり前のことを彼女が教えてくれた。
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