2025/06/08

超能力が暴く恋の真実──“本音”しか通じない恋愛


どうもっ!らぶあんどぴーすです。

📖読み切り短編物語

本日の物語を開いてみましょう🧐

「心を読める彼女と、秘密を抱えた僕」──非日常が暴いた恋の真実


■すべてを見透かす“目”

「あなた、また嘘ついたね」

 そう言って、彼女は静かに笑った。

 初対面のはずなのに、僕の心の中にある“隠していたはずの嘘”を見抜いた。 彼女の瞳は、どこか異様に深く、心の底にあるものをじっと覗き込んでくるようだった。

 その瞬間、僕は悟った。

──この人は、心が“読める”。

そして、この人にだけは、嘘をつけない。


■出会いは“事故”だった

僕は蓮、Web制作会社で働く27歳。仕事はそこそこ、人生はぼんやり恋愛には臆病だった。

 そんなある日、帰宅途中の駅で人混みに押されて転びそうになった。

 咄嗟に誰かに掴まれ、引き上げられた。

「気をつけて。転ぶって、なんとなく感じたから」

そう言ったのが、七瀬だった。

 彼女は、僕の「動く前の思考」に反応していた。

 その夜から僕の日常は音を立てて変わり始めた。


■「あなたの“声”が、聞こえるの」

 七瀬と会うようになって数日後、彼女は告げた。

「私ね、“感情が音として聞こえる”の。だから、あなたが今本当に何を感じてるか全部わかるの」

 たとえば、好きとか疑ってるとか嘘をついてるとか、すべての“心の音”が、彼女には届くらしい。

僕は最初、信じられなかった。

でも、彼女はこう続けた。

「だから、恋をしたことがないの。“嘘”がすぐにバレてしまうから」

そして言った。

「でも、あなたの心は静かで素直で穏やかだから……側にいたいと思ったの」


■感情が聞こえる世界の孤独

 七瀬の“力”は、幼少期からのものだった。 喜怒哀楽はもちろん、嫉妬や皮肉、裏切り、疑念まですべてが音で伝わってくる。

「人は、見えない場所でたくさんの嘘をついてる。だから疲れるの」

 家族も友人も、誰ひとり心を完全に開いた人はいなかった。

 そんな中、僕の感情だけが“静か”だったという。

「あなたの心には、“嘘をつく意志”があまりない。そういう人は珍しいの」

 だから、彼女は僕を選んだのだという。


■「本音しか通じない恋」が始まった

ある日、僕は彼女に告白した。

「好きだよ。たぶん最初から」

七瀬はにっこりと笑った。

「うん、聞こえてたよ」

 その日から、僕たちは付き合い始めた。 普通のカップルのように映画を観たり、散歩したり、休日に料理したり。

 ただひとつ違ったのは、「心の嘘がすぐバレる」ということ。

 たとえば「大丈夫」と言っても、心で「寂しい」と思えばすぐに指摘される。 「行きたくない」気持ちも、言葉にする前にバレてしまう。

 でも、それは逆に心地よかった。


■ふたりの関係に、ひとつの“異変”

 恋人として過ごすうちに、僕の心にも変化が現れ始めた。

「……最近、君の前だと“思考が読まれている”ことに緊張するようになったんだ」

七瀬は悲しそうに言った。

「そうなると、心の音が“濁って”聞こえるの。前みたいに、きれいに届かなくなる」

 つまり、僕が「彼女に読まれたくない」と思いはじめると、彼女は僕の感情を正しく受け取れなくなる。

 それは、彼女にとって恐怖でもあった。

「この力を“消せたら”ってずっと思ってたの」


■「能力を消す方法」があるとしたら?

ある夜、七瀬は言った。

「蓮くん、私……この力を“消す方法”があるかもしれないの」

 それは、ある臨床心理士から教えてもらった“記憶感情遮断”という特殊なセラピー。 記憶にまつわる感情を消すことで、その影響からくる“異能力”も消せる可能性があるという。

 でも、それは同時に――

「あなたとの“恋愛感情”も、もしかしたら消えるかもしれない」

 恋と引き換えに普通の生活を手に入れる。

僕は答えを出せなかった。


■決断の夜

「七瀬が、自分の力を捨てたいなら……俺も手伝いたい」

僕はそう言った。

 だけど本当は、彼女が僕を“好きでいなくなる”可能性が怖かった。

でも、それでも。

「君が生きやすくなるなら、俺のことなんて忘れてもいい。幸せになってくれ」

七瀬は泣いた。

「あなたって、どうしてそうやって……最後の最後で、静かに優しいの?」

それが彼女と過ごした最後の夜だった。


■1年後、再会と“沈黙の告白”

 1年後、僕は偶然、街中のカフェで七瀬を見つけた。

 彼女は誰かと楽しそうに話していた。笑っていた。

声をかけるべきか迷った。

 だけど、彼女がふとこちらを見た瞬間──

目が合い、そしてゆっくりと歩み寄ってきた。

「……久しぶり、蓮くん」

「……覚えてたの?」

「うん。“心で感じたこと”は、ちゃんと残るみたい」

僕はもう一度、彼女に恋をした。

 でも、今度は心が読めなくてもちゃんと伝えることを僕は選ぶ。


■嘘がなくても、言葉は必要だ

たとえ、心を読めても。

たとえ、すべての感情が聞こえても。

 それでも「言葉で伝えること」は、やっぱり必要だった。

“非日常の能力”に頼らなくても恋はできる。 むしろ“不完全”だからこそ、愛は深まる。

 そんな当たり前のことを彼女が教えてくれた。

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