どうもっ!らぶあんどぴーすです。
📖読み切り短編物語
本日の物語を開いてみましょう🧐
「3時間しか会えない恋人」──非日常の時間に紡がれる、儚くて強い愛の物語
■午前0時に、君はいなくなる
「ねえ、あと何分…?」
「20分くらい」
「そっか、じゃあ、今日は手をつないだまま寝よう」
彼女は、午後9時に現れ、午前0時ちょうどに消える。
記憶には残るのに、誰も彼女の存在を知らない。 いや、むしろこの世界に存在した痕跡すら残さない。
それでも、彼は彼女に恋をした。
そして、彼女もまた、彼に恋をしていた。
■第1章:最初の出会いは「夢」だった
大学4年の春、就職活動も山場を越え、篤志は気が抜けたような日々を送っていた。 将来の夢も情熱も、子どもの頃のようにはっきりしない。生きる意味もよくわからなかった。
そんなある夜、彼は夢を見た。
──湖のほとり、月の光の中に立つ女性。 ──「こんばんは」と微笑むその人は、篤志の名を呼んだ。
「君、誰?」
「わたしは、あなたの記憶の中から生まれた“存在”」
夢から覚めた後も、彼女の顔だけがはっきりと残っていた。
それが“彼女”との最初の出会いだった。
■「君は…本当に夢なのか?」
それから数日後の夜。 篤志の部屋の扉が、勝手に開いた。
そこにいたのは、夢に出てきた彼女だった。
「こんばんは、篤志くん。今日も、3時間だけ、ここにいられる」
「……どういう意味?」
「私には制限があるの。“あなたの空想”が私を現実につなぎ止めてくれている間だけ、生きていられる」
信じがたい話だった。だが彼女は確かにそこにいて、触れられた。温かくて、微笑んで、優しい声を持っていた。
■「3時間の恋」がはじまる
それから、毎晩午後9時、彼女は現れる。
料理を一緒に作った。YouTubeで動画を見て笑った。星を一緒に見に行った夜もあった。
彼女の名前は「澪」。
「あなたが空想をやめた瞬間、私は消えるの。完全に」
3時間しかいられない存在。物理的な痕跡も、記録も、この世界に残さない。
だけど、篤志の中には、確かに「恋」が育っていた。
■澪の“正体”と、思い出の写真
ある日、澪はこう打ち明ける。
「私はね、本当は“もういない人”なの」
篤志の幼いころ、事故で亡くなった少女がいた。名前は、澪。小学1年の時、同じクラスだったが、彼はその記憶を封じていた。
澪は続けた。
「あなたが私のことを“忘れようとした時”から、私は“存在できるようになった”の」
空想と記憶が生み出した、恋人という形の“記憶の残像”。
だが、心はリアルだった。
■第5章:運命の「消失予告」
「明日で、私の存在は終わるよ」
それは突然の宣告だった。
「あなたが、わたしを“完全に愛してしまったから”」
矛盾しているようだが、澪の存在は「曖昧な記憶」であることで保たれていた。
「完全に愛された瞬間、私はもう“幻想”ではいられない。だから、消えるの」
篤志は涙をこらえた。
「それでも、俺は君を愛してしまった。澪、お前が消えるなら、俺の中に永遠に残ってくれ」
■最後の3時間と、時間が止まったキス
6月5日、21時00分。
最後の澪が現れた。
彼女はいつもと変わらぬ微笑みで、篤志の隣に座った。
一緒に写真を撮ることも、文字を残すこともできない。 だけど、心には刻まれる。
澪は言った。
「私の存在は、誰にも証明できない。でも、あなたの心が覚えてくれていれば、それでいい」
0時が近づく中、彼女はそっと彼に口づけた。
そして時計の針が、午前0時を指した瞬間── 篤志の部屋は空になった。
■彼女が遺したもの
澪が消えた翌朝。篤志は、ベッドの下から小さな箱を見つけた。
それは、子どものころに描いた絵の詰まったアルバムだった。最後のページには──
《おとなになっても、わたしを忘れないでね みお》
“記憶”が現実に干渉したのだろうか。それとも、ずっとそばにいたのか。
篤志は、彼女の存在を秘密にした。
その夜から、澪は現れなくなった。だが彼の心には、確かに彼女がいた。
■恋は、存在しなくても“残る”
私たちは、忘れてしまった記憶や、誰にも言えない想いを、心の片隅に隠して生きている。
でも、そこに“非日常の入り口”があるかもしれない。
もし今、誰にも話していない恋があるなら。
それが、たとえ届かない恋だったとしても──
その想いは、ちゃんと生きている。
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