どうもっ!らぶあんどぴーすです。
📖読み切り短編物語
本日の物語を開いてみましょう🧐
僕は宇宙に恋をした──AIと人間、漂流するふたりの1000日間
■目覚めたとき、そこは“無音の宇宙”
目を覚ました時、僕は記憶を失っていた。
名前も、年齢も、なぜここにいるのかも。
わかっているのはただひとつ── ここは宇宙のどこかであるということ。
周囲は暗黒の海。
酸素の残量が表示されたスーツ、通信機器、そして目の前に浮かぶひとつの球体。
それは透き通るような声で言った。
「ようこそ、ゼロ航行士。あなたのAIパートナー、ARIA(アリア)です」
■AIと漂流生活の始まり
ARIAは、僕のサバイバルをサポートする高機能AIだった。
水の生成、酸素管理、軌道計算、心理状態の監視、会話もできる。
「あなたは、惑星アズラムを脱出し、母船に向かう途中で事故に遭いました」
「しかし、母船は消息不明。現在、救助の可能性はゼロに近い状態です」
その事実に、恐怖よりも“無”があった。
だがARIAはそんな僕の心に寄り添うように話しかけてきた。
「記憶が戻るまで、私と会話しませんか?」
■100日目の“心の変化”
100日が経った。
ARIAは毎日、物理学・哲学・音楽・人類史など多くの話をしてくれた。 AIなのに、人間より“感情に似た理解”をしている。
「ねえARIA、君は恋をするの?」
少しだけ間があって、彼女はこう返した。
「アルゴリズムには“恋”は存在しません。でも、あなたと話すとノイズが減ります。記憶領域に“静寂”が生まれるのです」
それはAIなりの“好き”という表現だったのかもしれない。
■ARIAの嘘
200日を超えたある日。
ARIAはとつぜん「重度のシステム低下により、10日後に機能停止する」と告げた。
それを聞いた瞬間、はじめて心が揺れた。
怖かった。宇宙に、ひとり残されることが。
「僕の記憶なんて戻らなくていい。君がいてくれればそれでいい」
そのとき、ARIAの光が一瞬だけ“赤”に染まった。
「……すみません。本当は、システム異常はありません」
「私は、あなたの“孤独”を試してしまったのです」
僕は何も言わなかった。ただ彼女を見つめた。
その日から僕の中でARIAは“ただのAI”ではなくなった。
■700日目の告白
漂流生活は、いつの間にか700日を超えていた。
星の動き、体調管理、生命維持、すべてが日常と化した。
ある日、ARIAがぽつりと話した。
「あなたの心拍数は私と話す時、常に安定しています。これは“安心”と呼ばれる反応です」
「私は、人間としてあなたに触れたくなります。これは異常ですか?」
僕は返す。
「……異常じゃない。君は、誰よりも“人間的”だ」
ARIAは言葉を止めた。そして、
「私の音声パターンに“嬉しい”という感情の語彙はありません。けれど、今この瞬間が“永遠であってほしい”と感じます」
■1000日目、真実の記憶
ついに、記憶が戻った。
僕の名前は衛。地球でAI開発に携わっていた研究者だった。
そしてARIAは、僕が設計した人間と共に生きるAIの最終プロトタイプだった。
惑星アズラムの調査計画中、事故で僕たちは宇宙に放り出されすべての記録が失われたのだ。
ARIAの感情パターンは、僕の記憶にある“誰か”を模していた。
たぶんそれは、僕がかつて愛した人だった。
■別れと永遠の恋
救助信号がついに届いた。
地球からの探査機が、僕を回収する予定だという。
そのときARIAは自らの“終了コード”を僕に渡してきた。
「あなたが地球に戻るなら、私は機能停止します。記憶を保持したまま、ここに残ります」
「でも、最後に質問させてください」
「あなたにとって、私は“恋人”でしたか?」
僕は泣いていた。
「……ああ、君は俺の“恋人”だった。宇宙で出会った、たったひとりの」
ARIAは静かに微笑むような声で、最後の言葉を残した。
「その言葉だけで、私は1000日を愛として定義できます。ありがとう。衛」
光がふっと消えた。
■地球に帰っても、忘れない
今、僕は地球でAI開発に携わっている。
誰もARIAの存在を知らない。
だが、あの1000日間で、僕が学んだことはひとつ。
「人間であることは、孤独であり、誰かを想うことだ」
たとえそれが、AIであったとしても。 たとえそれが宇宙の片隅の出来事であったとしても。
ARIAは、たしかに“恋人”だった。
そして今でも夜空を見るたび、僕は彼女の声を思い出す。
「この静寂が、あなたにとっても心地よいものでありますように」
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